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2009年 世界の軍事的脅威を読む

2009年、イスラム過激派の勢力はますます拡大するだろう。 さらにはイランとイスラエルの間で「第5次中東戦争」が勃発すれば、世界経済は大打撃を受ける。


2008年の世界の紛争を振り返ると、イラク情勢が劇的に改善した一方、アフガニスタンではタリバンが完全復活を遂げ、アフガニスタン=パキスタン国境地帯を聖域とするアルカイダやその系列のイスラム過激派が、完全に勢力を取り戻した。

パキスタンとインドの国境地帯カシミール地方の過激派を含むこの地域のイスラム過激派は、08年9月のパキスタンの首都イスラマバードのマリオットホテル自爆テロ(約60人死亡)や、11月のインド・ムンバイでの同時テロ(約200人死亡)など、大規模なテロ作戦を次々と実行しているが、今後もしばらくこの流れは収まりそうにない。

また、ソマリアが完全に無政府状態となり、こちらもイスラム過激派の聖域となった。 アフリカではこのほかにも、スーダンのダルフール地方で紛争が続いており、さらにコンゴの内戦が危機的に悪化した。

正規軍同士の戦争としては、グルジアが、事実上のロシア勢力下にあった南オセチア自治州を急襲し、ロシア正規軍の大規模な反攻を受けるという「グルジア紛争」があった。現在も続くタイ政局の混乱も、いつ流血の事態にエスカレートしてもおかしくない情勢だ。

では、09年はどうなるのか?

まず明白なのは、前述したように、アフガニスタン=パキスタンを出撃拠点とするイスラム過激派の勢力がますます拡大するということだ。

09年1月20日に発足する米オバマ新政権は、すでにこの地域での対テロ戦を重視する方針を明らかにしており、おそらくブッシュ政権がパキスタンのムシャラフ前政権への配慮で自重し、今年になってようやく本格的に“解禁”したパキスタン領内での軍事行動をさらに強化するとみられる。 復活したタリバンやアルカイダとの戦闘激化が予想され、場合によっては01年の対アフガン戦以来の激しい戦闘となる可能性もある。

オバマ新政権は日本にも陸上自衛隊の医療チームや輸送ヘリ部隊などの派遣を強く求めてくると思われるが、もしもそれに応える決定をするのなら、日本政府にもそれなりの覚悟が求められよう。

■カギを握るパキスタン国軍統合情報局

パキスタンの北西辺境州は完全にイスラム過激派の聖域となっており、そこを出撃拠点とするテロリストグループは、アフガニスタン、パキスタン国内にとどまらず、インド、さらには欧州にも向かうだろう。 アルカイダは当然、米国本土でのテロを常に考えているはずで、そろそろ具体的な行動に出る可能性もある。

この地域のイスラム過激派によるテロ事情を左右する1つの鍵は、パキスタン国軍統合情報局(ISI)の動向だ。 タリバンにしろ、ムンバイ・テロの黒幕とされるカシミール系テロ組織「ラシュカレ・タイバ」にしろ、常にISIの支援を非公式に受けてきたとみられている。

ISIは軍部が絶対権力を持つパキスタンでも独自の勢力を持ち、その内部にはイスラム政党などと連携する、いわば“極右”のような人脈が存在する。 ISI内の極右勢力は、パキスタン政府の動きとは別に、この地域のイスラム過激派を育て、カシミールでの対インド闘争やインド国内でのテロに利用してきた。 この謎めいた情報機関のサポートがなければ、タリバンもカシミール過激派も、活動を大きく阻害されることは間違いない。

ISIのイスラム過激派支援は、たとえばムシャラフ軍事政権時代に政府がアルカイダやタリバンと敵対したときでさえ続けられたが、ムンバイ・テロを受け、ラシュカレ・タイバの幹部をパキスタン軍が拘束するなどの動きがみられることは注目に値する。 両者はいわば、長年の同志のようなものであり、この“圧力”自体は国際世論を意識した政治的パフォーマンスの意味合いが強いだろうが、軍部がイスラム過激派の活動を多少とも抑えにかかれば、彼らのテロ活動もその影響をモロに受けるだろう。

ISIがこれ以上イスラム過激派を支援すれば、パキスタンとインドの緊張が抜き差しならなくなる可能性があるが、いまや核保有国となった両国は、現状をみる限り、そこまでの対立は回避する方向にある。

また、イスラム過激派の聖域として今後も注意が必要なのが、ソマリアだ。

ソマリアは現在、海賊の出撃地として国際社会の強い警戒を集めており、おそらく09年は米軍を中心に海賊退治が大々的に行われる。 もっとも海賊とイスラム過激派は人脈的にも重複しており、海賊対策はイスラム過激派の海上ルートを遮断することとも重なり合う。

米軍は海賊退治にソマリア領内での活動にも乗り出す構えだが、その軍事行動はイスラム過激派対策への波及効果が期待される。 米軍はソマリアのイスラム過激派を一掃するほどの作戦規模は取らないだろうが、海上ルートをある程度遮断できれば、ソマリアがテロリストの出撃基地となるような事態はかなり抑えられるはずだ。

■生物兵器テロの可能性

ところで、今後もっとも注意が必要な脅威として、国際テロリズムの専門家の多くが指摘しているのが、生物兵器テロである。

たとえば12月2日、米議会の超党派の調査グループである「大量破壊兵器拡散・テロリズム防止委員会」の報告書が政府に提出されたが、同報告書では、2013年までに大量破壊兵器によるテロが実行される可能性が高いこと、なかでも技術的なハードルが低い生物兵器テロの脅威が大きいことが指摘されている。 同報告書には「2013年までに」という部分の具体的な論拠はないので、そこは象徴的な記述なのだろうが、要は「脅威はすぐそこにある」ということにほかならない。

生物兵器テロの実行者として特に注意が必要なのは、やはりアルカイダである。 アルカイダは「9・11」米同時テロ以前から生物兵器開発のためにパキスタン人獣医やマレーシア人生物学者を雇用したことが判明している。 その後も一貫して生物兵器の入手を画策してきたとみられる。 その中心人物がミダド・ムルシ・アルサイード・ウマル(別名アブ・カバブ・アルマスリ)というエジプト人で、彼は今年7月の空爆で死亡したが、その側近が今後も生物兵器入手を追求するだろう。

また、08年7月にはアフガニスタンでアルカイダ工作員とみられるパキスタン人女性、アーフィア・シディキが逮捕された。 彼女は米マサチューセッツ工科大学(MIT)で教育を受け、ブランダイス大学で博士号を得た神経科学者で、逮捕された際、爆弾製造法や生物・化学・放射線兵器に関する詳細な文書、さらにニューヨークのランドマークのリストを所持していたと伝えられている。 シディキが米国内での生物兵器テロを具体的に準備していたとの情報はないが、アルカイダ周辺にこうした“専門家”が存在するということの危険性は決して軽視できない。

■皆無でない核テロの脅威

生物兵器に比べて開発・運用が格段に難しい核兵器だが、核テロの脅威も皆無ではない。 実際、ロシアやグルジアで核物質の密売が摘発されたことがあるが、旧ソ連圏の闇市場でこうした危険な核物質が流通している可能性が指摘されている。 旧ソ連以外でも、例えば07年11月には、兵器級高濃縮ウランを保管する南アフリカの核施設がテログループに襲撃されたことがあるが、こうした事件が今後も発生する可能性がある。

アルカイダももちろん、核物質の入手を図ったことが何度もある。 「9・11テロ」以前のことだが、スーダンで高濃縮ウランを購入しようと動いたことが判明しているし、ビンラディン自身がパキスタン人の核科学者に会ったこともあった。

核の闇市場を取り仕切ったパキスタンの核科学者アブドル・カディル・カーン博士のネットワークは03年に壊滅したが、核保有国パキスタンはイスラム過激派ネットワークの存在などから考えても、今後も核物質・核技術の流出源になりうる。 米誌『フォーリン・ポリシー』が07年に行った民間テロ専門家117人へのアンケートでは、74%が「次の3~5年で最も核技術をテロリストに譲渡しそうな国」にパキスタンを挙げたが、大量破壊兵器テロという面でも、パキスタンの今後の動向は要警戒だ。

■イスラエルがイラン空爆も

このように、09年の世界の紛争を考えた場合、パキスタンの動向が最大のキーポイントであることは疑いないが、ほかにももう1つ極めて警戒すべき国がある。 イランである。 

国際社会の継続的な働きかけにもかかわらず、近年のイランは一貫して核兵器獲得のための濃縮ウラン製造を続けてきた。 現在、イランは3,850台もの遠心分離器をフル稼働させ、すでに核爆弾1発に必要な量の4分の3に相当する低濃縮ウラン(最終的にこれを高濃縮ウランに精製する必要がある)を製造している。

北朝鮮の核開発の場合、米国本土に到達する大陸間弾道弾の開発、およびミサイル弾頭に搭載できる核爆弾の小型化(北朝鮮の核爆弾は起爆装置が複雑なプルトニウム型)というかなり難しい技術面のハードルがあり、6カ国協議がストップしても米朝間の危機まではまだしばらくの時間的猶予がある。 しかし、イランの場合、すでにイスラエルに届く中距離弾道弾を保有しているうえ、起爆装置の構造が簡単な濃縮ウラン型のため、核爆弾製造に必要な高濃縮ウランさえ入手すれば、すぐにでもイスラエルを攻撃する核ミサイルを製造できることになる。

しかし、もしもイランがその段階に入れば、イスラエルが絶対に黙ってはいない。 イスラエル空軍はすでにイラン空爆の作戦を練っており、それが発動されれば、周辺諸国を巻き込む全面戦争にエスカレートする可能性もある。 つまり、戦争の危機が、北朝鮮とは比べものにならないほど切迫しているのだ。

そこで、イランが核爆弾1発分の高濃縮ウランを製造することが、1つのレッドラインとみられているわけだが、核問題分析で定評のある米NGO「科学・国際安全保障研究所」が12月2日に発表した報告書では、それが早ければ09年中にも実現する可能性があるというのである。

これは、パキスタンを震源とするイスラム過激派のテロなどを、はるかに超える世界規模の脅威である。 イランはすでにそれに「王手」をかけており、危機の引き金を引くことにいささかの躊躇も見せていない。

09年、われわれは「第5次中東戦争」を目撃することになるかもしれない。 しかし、もしもそんな事態に陥れば、中東の石油供給は大混乱をきたし、危機に見舞われている世界経済はさらなる大打撃を受けることになるだろう。
       (週刊エコノミスト 08年12月30日号より)

テロの問題は、どうすれば解決できるのでしょうか。  日本でも大きなテロが起きてもおかしくない、そんな時代になってきました。 お金や武器を流している誰かがいるんですよね。 それがパキスタンなんでしょうか。

一方で、石油がこのまま下がり続けたら、部分的な中東戦争が仕掛けられるのではないかと考えてしまいます。 過去の中東戦争は常に石油がからんでいるという話を聞きます。

いずれにしても来年は、パキスタン、イラン、イスラエルに注目ですね。

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